[2] 今週の~大前研一ニュースの視点~
『東国原知事
~知事の限界と可能性。地方分権時代に求められる知事像』■┓自民選挙対策
┗┛東国原知事~自民の出馬要請に条件
―――――――――――――――――――――――――――●日本では県知事の手腕は、ほとんど関係ない
23日、自民党の古賀誠選挙対策委員長は、宮崎県庁で東国原英
夫県知事に同党からの衆院選出馬を要請しました。これに対し
東国原知事は、党の総裁候補として衆院選を戦うことを条件に
提示。与野党の内外に波紋を広げています。最初に東国原知事の発言を聞いたときには、元芸能人らしい冗
談かと思いました。本気だと言うのですから、さすがの私も驚
きましたが、ここには大きく2つの誤解・問題点があると私は
感じています。まず1つには、おそらく安倍元首相、福田前首相、麻生首相と
いった面々と自分を比較して、彼らよりも自分の方ができると
思っているという点です。残念なことに比較対象として考えるには、最近の日本の首相で
はレベルが低すぎると言わざるを得ません。彼らと比較してみ
たところで、東国原知事が首相の職責に耐えうるかというのは
全くの別問題です。首相になるということは、国を預かるということです。今、東
国原知事は、日本の外交・通貨の発行といった分野において、
具体的な構想を持ちえているでしょうか?何か具体的な主張が
あるでしょうか?そもそも、そういった分野について基礎的なトレーニングを積
んでいるかということ自体、私には疑問です。マスコミの人気
に押される気持ちも分かりますが、もう少し冷静になって自分
のスキルについて見つめ直してもらいたいところです。またもう1つには、東国原知事が県の経済を復興・活性化させ
るという意味では、殆ど成果を残せていないということです。ただしこれは、宮崎県に限った話ではありません。日本という
国は完全に中央集権国家です。東京都を除けば、ほとんど全て
の道府県は国からの交付金がなければ生きていけません。ですから、どんなに知事が活躍しても基本的には意味がありま
せん。実際、過去にも国民からの人気を博した知事は大勢いま
したが、これらの知事の中で「県民所得」を劇的に高めること
に成功した人は、私が記憶する限り、一人もいません。一時期、佐賀県の県民所得が上昇した時期がありましたが、そ
れは佐賀県そのものの経済が活性化したのではなく、福岡県の
経済が膨張し、それがスピルオーバーした結果、佐賀県にも影
響したというものでした。同様の現象は、東京都と埼玉県の間
にもよく見られます。逆に言うと、知事の手腕が影響する範囲が限られているからこ
そ、特に厳しい評価査定をされることなく、「国に逆らう」とい
う姿勢を見せていると、それだけで人気が出ることが多いのだ
と思います。橋下大阪府知事や田中康夫元長野県知事にしても、全く同じで
す。彼らもダム建設へ疑問を投げかけ、国への反対姿勢は示し
ました。しかし、経済のテコ入れはできず、結局、県民所得を
高めることは実現できていません。●地方分権を実現するための、新・薩長連合構想の考え方とは?
では、地方の知事としては、国政に影響を与えるためにどのよ
うに働きかけていけばよいのでしょうか?26日、大阪府の橋下徹知事は、横浜市の中田宏市長らと結成す
る政治グループについて、地方分権を主張する新たな地方政党
とする可能性を示唆したとのことです。これが橋下知事や中田市長が出した答えということになるので
しょうが、十数年前に「新・薩長連合」という構想を発表して
いる私としては、もう1歩踏み込んで考えてもらいたいと強く
感じてしまいます。私はかつて東京都知事に立候補しました。なぜなら、東京都だ
けは国からの交付金を受けずに済む立場なので、国をひっくり
返す力を持っていると思ったからです。そして同時に、知事連盟構想としての「新・薩長連合」という
考え方を提示しました。この構想は「文藝春秋」95年3月号で発表したもので、詳細は
論文を読んでいただきたいところですが、ここでは要点だけを
まとめておきます。・衆議院議員よりも地方の知事や市長の方が、実質的に地域に
対して影響力が強い・なぜなら、例えば横浜市を見ると、衆議院議員が数名に対して、
横浜市長は1人だから・知事や市長は、自分が出馬するのではなく、応援する衆議院議員
を中央に派遣すればよい・そうすることで、いくつかの市長が集まると衆議院に対する影響
力も大きくなるつまり、知事・市長は地域の長という立場を保ったまま、自ら
が応援する人を中央に派遣していくということです。これなら
ば、知事や市長という立場のままでも国政に影響を与えること
はできるのです。将来的に道州制という地方分権を想定するのであれば、地方の
長として臨むことが重要だと私は思います。地方分権を叫びながら、自らは中央に出て行って総裁になろう
というのは時代に逆行していると言えるでしょう。道州制に移行するためには、地方自治体で出来ることを最大限
に活かしつつ、その実現に必要な法律改正などについては、中
央に派遣した議員に任せるべきだと思います。こうした地方連合を作り上げることで、根気強く国政に影響を
与えていく、というのが私が提唱した「新・薩長連合」の考え
方です。今、一部の知事や市長がもてはやされ、国民からの人気も高い
ようですが、こうした現象はマスコミに問題があると私は思い
ます。面白いという理由だけで大々的に取り上げるから、本質的な議
論が全くなされていません。「中央集権を壊す」という類の発言をよく耳にしますが、それ
だけでは意味がありません。では、具体的に何をやるのか?と
問われたときに、きちんと自分のロジックを説明できる人はい
るでしょうか?橋下知事や中田市長などの新しい動きも、道州制という統治機
構を前提に徹底的に実行していくならば、非常に面白いと思い
ます。ただし、その場合には自らが特定の政党に属すのではなく、私
の「新・薩長連合」の構想を参考にして、ぜひ「新しい動き」
として関わってもらいたいところです。知事や市長という立場は「将来首相や大臣になるためのショー
トカット」ではありません。そういう意識が少しでもあるなら、すぐに改めていただきたい
と思います。知事や市長には地方分権の担い手としての大きな
役割があります。ぜひ、それを今一度見つめなおしてもらいた
いと感じています。